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いわし・煮干しのいろは

煮干の呼び方

煮干は、東日本ではニボシと単一の呼び名が普及していますが、全国的には煮干の呼び名は多様で、20以上もあります。京都・滋賀・大阪では「じゃこ」「だしじゃこ」、中国地方では「いりこ」の呼び名がよく使われています。その他、宮城の「たつこ」、長野や岐阜の「蒸し田作り」、富山の「へしこ」、和歌山の「いんなご」、熊本の「ごまめ」「だしご」等々、地域ごとに伝統的な呼び方があるようです。

煮干の原料、イワシのいろいろ

煮干は、鰯(イワシ)を食塩水で煮て、干したものです。イワシと言っても世界中には330種ものイワシの仲間がおり、非常に種類が多いのです。煮干に使われるのは、主にカタクチイワシやマイワシの小さなものが使われます。

マイワシは、背中は青みかがった緑色、腹は銀白色で、ウロコが薄くて丸いのが特徴です。常磐・房総地方では、マイワシの大きさによって、呼び名を区別しています。大羽(おおば)イワシ(20cm以上)、ニタリイワシ(18cm〜20cm)、中羽(ちゅうば)イワシ(15cm〜18cm)、小中羽(こちゅうば)イワシ(12cm〜15cm)、小羽(こば)イワシ(8cm〜12cm)、タツクチ(5cm〜8cm)と呼ばれています。

このうち、タツクチと呼ばれる5cm〜8cmの大きさのものが煮干の原料として使われます。

カタクチイワシは、上アゴが下アゴよりも前方に出ていることから、この名前が付けられたと思われます。マイワシよりも細長い体形をしています。背が青黒いことから、常磐・房総地方などではセグロイワシと呼ばれ、やはり大きさによって呼び名が細かく分かれています。大ゴボウセグロ(13cm〜15cm)、ゴボウセグロ(12cm〜13cm)、中ゴボウセグロ(10cm〜12cm)、中セグロ(8cm〜10cm)、ジャミセグロ(5〜8cm)、カエリ(稚魚)、ボウズシラス(仔魚(しぎょ))と呼ばれています。

ちなみに、干物が珍重されるウルメイワシ(潤目鰯)は、目に厚い透明な膜があり、その名の通り、目がウルウルと潤んでいるように見えることからこの名がついています。

イワシの先祖

イワシの先祖が最初に現れたのは、巨大な恐竜たちが繁栄していた1億3000万年ほど前の中生代・白亜紀と言われる時代です。

日本では、北九州市小倉北区の古い地層から「ディプロミスタス」という1億2000万年程前のものと思われるイワシの先祖の化石が発見されています。「ディプロミスタス」は、淡水の湖に住んでいたものと考えられていますが、もともとは淡水魚だったイワシの先祖たちが、いつ頃から海に移り住むようになったのか、詳しいことは分かっていません。

イワシと日本人は縄文時代からのつきあい

貝塚は、古代人のゴミ捨て場と言われ、多くの貝塚が国内で発見されています。貝塚からは350種類もの貝の他に、40種ほどの魚が見つかっていて、タイ・フグ・カツオなどに混じって、イワシの骨も発見されていることから、縄文時代にはすでに食用にされていたと推測できます。

平安時代になると各地から朝廷にイワシが献上されるようになりますが、イワシはすぐに鮮度が落ちて生臭さがでることから、上流階級には下賎な魚とされていたようです。

和泉式部は、イワシが好物で、家族の留守を見計らって食べていたところ、夫に見つかり咎められて、

「日の本にいははれ給ふ岩清水参らぬ人はあらじとぞ思ふ」

(有名な石清水八幡宮にお参りしない人はいないように、イワシを食べない人などいないでしょう)

という歌を残しています。

獲れたり獲れなかったり、イワシのナゾ

イワシ漁は、幕府のドル箱として江戸時代から大変盛んでしたが、当時から数十年単位で豊漁と不漁を繰り返すことが知られています。この魚ほど豊凶の波が激しく、栄枯盛衰を繰り返してきた魚は他に見あたりません。

この原因については諸説あります。

まず地球の温暖化と寒冷化が原因とする説。1930年代の北半球でのマイワシの豊漁、1940〜60年代の不漁は、北半球の平均気温の温暖化・寒冷化に対応しており、太陽放射のエネルギーの強さが植物プランクトンの量を決定し、それに依存するマイワシを量を支配しているというものです。

また、日本近海においては、親潮・黒潮の海況パターンの変動によるとする説や、ユニークなものとしては大地震の発生とイワシの豊漁との間に関係があるのではないかという説もあります。

マイワシの豊漁期には、大地震が多く、不漁期の2、3倍もおこっており、20世紀においては、日本全国のマイワシの漁獲量と相模湾付近でおこった地震活動を重ねてみると、見事に一致しているとのことです。

地震にともなう海中の環境変化(イワシの餌となるプランクトンの量の増加など)が、マイワシの量の変動を引き起こしているのではないかとする説です。

卵から成魚になる確率は数百万分の1

卵から孵化したばかりのマイワシの仔魚(しぎょ:魚の幼生。孵化して以後すべてのひれが完成するまで)は全長3〜4mmで、口はまだ開いていません。孵化後、約3日で卵黄を吸収しつくした後、口が開き、餌をとりますが、最初の2日間に餌にありつけないと死んでしまいます。これを「初期減耗」と呼び、どのくらいのパーセンテージでおこるかがその年のイワシの行方を占うカギとなるため、研究が行われています。

卵が孵化するまでに70パーセントは死に、生後2ヶ月の生存率は0.07パーセントで、成魚になるのはこれの数万分の1と言われています。

煮干はどうやってできるの?

煮干は、その名の通り魚を「煮て」「干した」ものですが、カタクチイワシ、マイワシ、ウルメイワシの他に、色々な魚の稚魚であるシラスやエビなどが煮干の原料として使われることもあります。

煮干の製造は、次のような工程で製造されています。

箱詰めされた煮干は、漁連で入札されたり、生産者や問屋によって市場でせりにかけられ、消費者の元へ届けられます。

水揚げ *イワシ漁船

早朝に漁獲されたイワシを水揚げします。鮮度を保つため、たっぷりの氷で冷やされています。

※写真上は加工場へホースで吸い上げているところです。

選別 *イワシの選別

大きさによって、原料魚の選別を行います。

洗浄 *イワシの洗浄

ぬめりを取るため、十分に水洗いをします。

簀立て *イワシの籠立て

原料魚をセイロに乗せます。

煮熟 *イワシの煮熟01

80℃〜100℃、3%程度の濃度の塩水で煮熟します。海水を使用するか、真水に塩を加えて使用しますが、真水で煮熟することもあります。

*イワシの煮熟02
乾燥 *煮干の乾燥

煮熟が終わった原料を乾燥させます。乾燥機を使用する方法と天日干しする方法がありますが、現在は温風または冷風乾燥機を使う場合がほとんどです。酸化を防ぐためにも乾燥機で仕上げる方が適しています。

選別・箱詰め *煮干の選別

混ざった異物などを主に目視で取り除き、箱に詰めていきます。

市場 *煮干の市場

箱詰めされた煮干は、漁連で入札されたり、生産者や問屋によって市場でせりにかけられ、消費者の元へ届けられます。

煮干が持つ永遠の課題とは?

煮干イワシの品質は、色、つや、形状、香り、ダシの強弱など色々な要素により決まりますが、一番重要なのは色です。銀青白色は上位、赤茶色は最下位にランクされます。

色に影響を与えるのは、原料中の脂肪の量です。この脂肪が酸化されると酸敗臭いが出て、また酸化する時にできた物質(酸化生成物)と原料中のアミノ酸などが結びついて、色が変わってしまいます。これを油焼けといいます。

煮干イワシの酸化は、製造工程の乾燥中からすでに始まり、水分の減少とともに急激に進みます。

酸化の原因となる油を減らすため、高温で長時間煮るなどの方法が考えられますが、それではダシ成分も同時に流れ出してしまい、解決法にはなりません。煮干と酸化は切っても切れない腐れ縁なのです。

そこで、「BHA」という酸化防止剤が使用されることになりました。これによって煮干イワシの酸化は大幅に防ぐことができるようになったのですが、昭和57年にBHAの発ガン性が指摘され、昭和58年には使用が禁止されてしまいました。(現在は、BHAは使用禁止が解除されています。)

そこで、BHAに代わる酸化防止剤が色々と研究され、ビタミンEが有効とされるのですが、BHAほどの効果をあげるに至っていないようです。

煮干の栄養

煮干は69%がタンパク質で、プロテインスコア80前後と牛肉や豚肉と較べても遜色ない良質なタンパク質です。タンパク質の他にも煮干は以下のような重要な栄養素を含んでいます。

カルシウム

煮干は、100g中2,000mgと、牛乳の100gと比較してもはるかに多くのカルシウムを含んでいます。また、カルシウムが体内に吸収されるためには活性型ビタミンDが必要なのですが、このビタミンDを煮干は豊富に含んでいます(牛乳にはビタミンDは含まれていません)。吸収率では牛乳の50%に対して煮干は30%と及びませんが、脂肪の摂取量が過多気味で、様々な成人病が問題となっている現代の日本人にとって、カルシウム源としては、煮干の方が適していると言えるかも知れません。

女性によく起こりがちな貧血ですが、原因として最も多いのが鉄分の不足です。一般的な食品の中では煮干は鉄分の含有量が圧倒的に高いことが知られています。吸収率でもホウレンソウなどの植物性食品が5〜7%であるのに対して、煮干は約10%と高くなっています。

その他のミネラル

リン、硫黄、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛、銅、セレン、マンガン、クロム、ヨウ素、等々、煮干は人間が必要とするミネラル成分をバランスよく含んでいます。

タウリン

某健康ドリンクで有名なタウリンですが、煮干には100g中500mg前後と豊富にタウリンが含まれています。タウリンはアミノ酸の一種で、肝臓の強化・肝機能の改善、疲労回復の働きがあると言われています。またタウリンは悪玉コレステロールを減らし、善玉コレステロールを増やす作用があるとも言われています。

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