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かつお・鰹節編
かつおはなぜ「鰹」?
かつおは「魚」偏に「堅い」と書いてかつおです。そもそもかつおに「鰹」という字をあてるようになったのは、江戸時代以降のことなのですが、それ以前は「堅魚(かたうお)」と表されていました。なぜ、かつおは堅い魚なのでしょうか?
それには、日本人がずっと昔からかつおを干物にして食べていたからではないかという説があります。古事記(712年成立)にも「堅魚」の記述があり、日本人は神代の時代から鰹節(の原型)を食べていたのですね。かつお鰹節は、日本の歴史に大変深く根ざした食べ物だということです。
鰹節の「節(ふし)」ってなんだろう?
鰹節は生のかつおを様々な方法で乾燥させたものです。でも、鰹節には節など見あたりません。なぜ「節(ふし)」がつくのでしょう?
鰹節は、煙でいぶしてつくられることから「かつおいぶし」が転じたのではないかと言われています。また、鰹節は松の節のように堅くて色が赤いため、「一節、二節」と「節」で数えられていました。製法の「いぶし」と合わさって「鰹節」の呼び名が誕生したのではないでしょうか。
鰹節のルーツはモルジブ?
かつおを焙乾して鰹節をつくる製法は日本独自のものではなく、はるかインド洋のモルジブでも行われています。モルジブではすでに14世紀前半に鰹節が製造・輸出されていた記録が残っているそうです。この頃の日本は鎌倉時代末期から南北朝時代の初期で、堅魚や煮堅魚といったかつおの乾燥品の記録はあるものの、鰹節そのものはまだ登場していません。初めて日本で鰹節の記録が登場するのは、さらに百数十年後の室町時代の末期のことなのです。
14世紀前半のモルジブは海のシルクロードの要衝として、各国の貿易船が頻繁に往来していました。日本で初めての鰹節の記録が残されているのが、南西諸島の種子島であることから、モルジブをルーツとした鰹節の製法が、中国・東南アジアとさかんに貿易を行っていた当時の琉球王国に伝えられ、さらに日本本土へ広まったのではないかと言われています。
かつおは、どこにいる?
かつおは熱帯から温帯(北緯40度から南緯40度)にかけて、世界中の広い海域に分布する回遊魚です。かつおに適した水温は19℃〜23℃。そのため春から秋にかけて熱帯から高緯度域へと回遊します。日本近海へは春先から黒潮に乗って北上してきます。「目に青葉 山ほととぎす 初鰹」とは江戸時代の俳人、山口素堂の有名な句ですが、毎年5月頃、最初に日本へ北上してきたかつおを「初鰹」と呼びます。初物に目がない江戸っ子によって珍重され、江戸の初夏の味を代表するようになりました。
かつおは、時速100kmで泳ぐ!
かつおは非常に高い遊泳力があり、高速で遊泳するのに適したロケット型の体型をしています。時速50km〜100kmに達することもあり、魚類の中でも最高の遊泳力があります。生まれて数週間で強い遊泳力をもつようになり、眠るときは速度を落とすものの、昼も夜も一生泳ぎ続け、年間で約3万キロも泳ぐと言われています。最大体長1m、体重25kgまで成長します。寝ているときまで泳いでいるなんて、なんともお疲れさまですね。
かつおはどうやって獲るの?
有名なのは、かつおの一本釣りです。カタクチイワシの生きたものを撒餌(まきえ)にして擬餌針(魚に似せた釣り針)で釣ります。短時間で連続的に釣り上げるため、釣り針に「かえし(かかった魚がはずれないようにする先端の突起)」がないのが特徴です。釣り上げた魚は、空中で竿を振って釣り針からはずし、船内に落下させて、連続的に釣り上げていきます。一本釣りの豪快さのゆえんです。
また、巻き網漁も行われています。かつおの群れを網で囲って漁獲します。一本釣りに較べ効率的ですが、網の中で魚が重なり合って、窒息したり、傷がつくなどの欠点があります。
鰹節に適したかつおとは?
鰹節づくりは、鰹節に適したかつおの選別から始まります。大きさは40〜65cm程度の2〜3年魚が使われます。当然、鮮度が高いものを選ぶことが重要ですが、実は、あまり鮮度が高すぎるのもよくありません。煮熟の折に、身割れをおこすことがあるのです。このへんの判断は、長年の経験がものをいうところです。
また、かつおは時期によって脂ののり方が違います。水温の低い海域にいるときはそれに適応するために脂肪を蓄え、逆に水温の高い海域にいるときは脂肪を減らします。尾の付近の肉が盛り上がって肉付きのよいものは、脂がよくのっていて刺身やタタキにしたらとてもおいしいのですが、鰹節をつくるには脂が多すぎて向いていません。日本近海に回遊してきたかつおは、春から秋にかけて太平洋岸を北上しますが、体に脂肪を蓄える前の4〜7月にかけてのものが鰹節の原料として向いています。脂肪分1〜2%のものが最適とされており、漁獲時期も重要なのです。脂肪分が多すぎる鰹節(油節といいます)でだしをとると、香りや味が劣って、濁っただしになってしまうのです。逆に脂肪分が少なすぎても香り味ともに薄く、粘りやつやに欠けただしになります。
どうやって鰹節になるの?
鰹節は、非常に手間のかかる食品で、ものによっては完成までに半年以上の期間を要します。水揚げされたかつおは、多くの場合冷凍されていますが、まずはかつおの解凍から始まります。
以下に、鰹節製造の工程を一覧しています。
生切り |
かつおの頭・内臓・背骨など不要な部分を取り除き、鰹節の原形に切りおろします。
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籠立て |
生の節を「煮籠」と呼ばれる金属製の籠の中に並べます。この時、身の最終チェックも行われます。
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煮熟・放冷 |
煮籠を煮釜にたたえた80℃のお湯につけ、お湯の温度を98℃まで上げます。沸騰させると泡で、煮崩れがおきてしまいます。そして1時間〜1時間半、煮熟します。その後、煮釜から取り出して風通しのよいところで、約1時間放冷します。
→ここまでの工程で、できあがった節をなまり節といいます。
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骨抜き・皮取り |
まず、一部を残し皮をとります。その後、専用の道具で骨を抜きます。別名「籠離し」とも言います。
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水抜き焙乾 |
焙乾とはいぶして水分を蒸発させることです。下からタキギで燃やすのですが、ナラ・クヌギなどの堅木がよいとされています。焙乾は何度も行われますが、一番最初に行われるのを「一番火」、「水抜き焙乾」と呼びます。
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整形 |
一番火の後、身が欠けていたり、傷ついていると次の工程で身割れがおきたりします。そこで中落ちの肉や頭の肉をペースト状にし、欠損した部分に竹ベラなどで埋め込みます。
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間歇焙乾 |
整形された節はさらに、二番火、三番火と焙乾を繰り返します。二番火以降を「間歇焙乾」と呼びます。焙乾を繰り返すにつれ、温度を低く、時間を長くしていきます。水分を減らすことが一番の目的ですが、酸化防止・香りづけの役目もあります。
→2回程度、焙乾した節を若節といいます。
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あん蒸 |
焙乾したかつおをセイロにいれてねかします。この工程で節の内側にある水分を表面に拡散させます。
※あん蒸が終わったら再び焙乾します。この作業を繰り返すことで節全体を均一に乾燥させることができます。焙乾とあん蒸は節の大きさによって異なりますが10〜15回程度繰り返します。
→ここまでの工程で、できあがった節を荒節・鬼節といいます。
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削り |
表面に付着したタールや、にじみでた脂肪分を手作業やグラインダーによって落とし、きれいな形に仕上げておきます。
→ここまでの工程で、できあがった節を裸節といいます。
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日乾・カビつけ |
削りの終わった節を1〜2日間、戸外で日に当てます。これを「日乾」といいます。次にカビが発生しやすいようにした部屋に節を入れ、半月ほど放置しカビを発生させます。続いて1番目のカビの付いた節を日に干し、丁寧にブラシでカビを除きます。
→ここまでの工程、できあがった節を上枯節・青枯節といいます。
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そして節を再びカビの発生しやすい部屋に戻し、2番目のカビが発生するのを待ちます。このカビを発生させ続いてそれを取り除く作業を通常さらに2回繰り返し4番目のカビまで発生させます。カビつけが終わると全行程が終了。本枯節の完成です。 |
どんな種類があるの?
鰹節には、原料の切り方や製造段階などによって、さまざまな呼び名があります。
大型のかつおを3枚に下ろし、さらに半身を腹側と背側の2つに切ったものを本節と呼びます。1尾のかつおから都合4本の節をとります。この本節の腹側を女節(めぶし)、背側を男節(おぶし)といいます。縁起物として結婚式の引き出物に鰹節が使われるのは、本節では女節、男節で対となるところからのようです。
また、小型のかつおを3枚に下ろし、半身からつくったものをその形から亀節といいます。本節になるか亀節になるか、大きさの境目はおおよそ3kg〜3.5kgです。
鰹節の本節(男節と女節)
鰹節の亀節
さまざまな工程をへてつくられる鰹節ですが、製造工程に応じて以下のような呼び名があります。
生利節 |
生切りした後に、煮熟したもの(焙乾を多少加えることもある)。切ってそのまま食べる。 |
若節 |
生切り・煮熟後、2回程度焙乾したもの。なまり節より少し軽く、切って食べる。 |
荒節(鬼節) |
生切り・煮熟後、焙乾とあん蒸を繰り返したもの。表面には焙乾によるタールが付着し、黒い色をしている。花かつおなどの原料となる。 |
裸節 |
荒節の表面のタールをグラインダーや手作業で落としたもの。 |
上枯節(青枯節) |
一番カビ付けし、日乾によって悪カビの付着をふせいだもの。 |
本枯節 |
4・5番カビ付けまでして仕上げたもので、仕上節ともいう。 |